抗生物質とは、微生物が産生し、ほかの微生物の増殖を抑制する物質の総称です。
フレミングが最初に発見した抗生物質であるペニシリンはアオカビが産生します。
初期の抗生物質は抗菌性を示すものがほとんどです。
一方、抗生物質が化学療法にもたらした貢献は革新的であり
抗生物質は抗菌剤の代名詞ともなりました。
その後、化学療法が扱う抗真菌、抗ウイルス、抗腫瘍の領域においても
真菌類や放線菌類などの産生する天然物が探求されていきました。
その結果、抗腫瘍性抗生物質のように、必ずしも微生物ではないウイルスや
悪性新生物の化学療法剤も抗生物質に含まれるようになりました。
また天然物を化学的に修飾し、その作用の増強や性質の改良が研究され
それら修飾された薬剤も抗生物質とよばれるようになりました。
したがって、今日では「微生物の産生物に由来する化学療法剤」が
広義には抗生物質と呼ばれています。
言い換えると、抗生物質は微生物の産生物に由来する抗菌剤、抗真菌剤
抗ウイルス剤、そして抗腫瘍剤であり、その大半が抗菌剤です。
なお、ピリドンカルボン酸系(キノロン系、ニューキノロン系)やサルファ剤など
完全に人工的に合成された抗菌性物質も一般的には「抗生物質」と呼ばれますが
厳密にはこれは誤りで「合成抗菌薬」と呼ぶのが正しくなります。
抗菌性の抗生物質、合成抗菌薬をあわせて、広義の抗菌薬と呼びます。
抗生物質を含む抗菌剤は、細菌が増殖するのに必要な代謝経路に作用することで
細菌にのみ選択的に毒性を示す化学物質です。
アルコール、ポビドンヨードなどのように
単に化学的な作用で細菌を死滅させる殺菌剤、消毒薬とは区別されます。
細菌性の肺炎や気管支炎、中耳炎、敗血症など感染症の治療に用いられます。
人類の最大の脅威であった細菌感染を克服し
平均寿命を大幅に伸ばすこととなった大発明でしたが
感染症との戦いは終わったわけではなく、治療法の開発されていない新興感染症
抗生物質の効力が薄くなるなどした再興感染症などが問題となっています。